一膳めし屋 八丁堀 鈴木米店
(東京都中央区)

左から、鈴木一弥さん、香さん、とりやまあきこ、工事を担当した隆栄建築の林隆二さん



昭和初期からの記憶を留めた長屋を、
お米がおいしいごはん屋さんに。

 

お祖父様から引き継いだ「鈴木米店」の屋号を掲げ、飲食店となった今も変わらず、

お米のおいしさを第一に考えたお店を営んでいるのが、鈴木一弥さんと香さんの夫妻。


新生鈴木米店にて、鈴木夫妻  

実は、とりやまと鈴木夫妻は子どもが同じ保育園に通っていたことから、顔を合わすうちに意気投合し、今ではすっかり仲のいい飲み仲間に。

「いつか店を改装するときはよろしくね」、そんな風に口約束を交わしていました。

再開発による移転が決まった際に、鈴木夫妻が新しい店舗の場所として選んだのは、旧店舗の斜向かいに昭和初期から残る古い長屋。

一弥さんが子どもの頃は、夏はかき氷、冬は鯛焼きが食べられる甘味処だったのだそう。



長く使われていなかった建物を耐震補強し、改築するというプロジェクトは、フタを開けてみてびっくりの連続でした。

どこもかしこも斜めに傾いている。床を剥がしてみたら基礎がない。階段に東京大空襲の戦火で燃えた跡がある。


天井をはがしたら、東京大空襲の時に焼夷弾が落ち、焼け焦げた後が出てきた

そこから建物の状態を一つひとつ確認し、直すところ は直し、残すところは残して、少しずつ図面がまとまっていきました。

「あっこさん(とりやま)と林さんが相談しながら工事を進めていたのが印象的でした。
判断も早いし、その場で臨機応変にやっていくのは、さすがプロだなぁって」と香さん。

「じゃ、この壁は取っちゃおうとかね。予算の面でも、壁の漆喰を自分たちで塗ったら抑えられるって教えてくれたり。
漆喰を塗るの、楽しかったよね」と一弥さん。

すると、林さんは「ものすごくテキパキと作業してくださって、私たちも工事を進めやすかったです」と、
おふたりの手際の良さに驚いたそうです。

 


リノベーション後の外観。4軒並びの長屋の中2つをつなげて店舗としていることがわかる(写真:斉藤さだむ)


リノベーション前の外観(あとりえ撮影)


改装において重要視したのは、効率よく客席を確保することと、ストレスのない動線にすること、
そして、昔のものをできるだけ残そうということでした。

「あっこさんが『なんでもかんでも新しくすればいいってもんじゃない』って言ってたのに共感して」と言う一弥さんの希望で、

使える窓や階段はそのまま残し、さらに、古材販売店でとりやまと一緒に選んだ古い蔵戸や障子を取り入れました。



既存のものを生かすところや、新しく「古い物」を取り入れるところを組み合わせている

内装前の解体された内部(あとりえ撮影)

 

「実は、以前ここに住んでいた方がいらしてくださって、『窓も階段もそのままでうれしい』と涙ぐんでいて……。
思い出を残すことができてよかったです。」と香さん。

「それから1階の動線も快適。カウンターの角を削ったりして動線を広げたことで、スタッフ同士 も行き交いやすくなりました。

あと、2階の杉材の床も座っていて気持ちいいですね。お客さんがついつい長居しちゃうのも分かります(笑)」と、

鈴木夫妻は完成した新生『鈴木米店』について満足気に語ってくださいました。


 

「改装するために2年近くお休みしていたせいで、早くオープンしたいと焦ってしまっていて、
いろいろ質問したり、たくさんお願いごとをしたりしたんです。

でも、あっこさんはいつもどっしりと構えて、的確に対応してくれたので心強かったですね」


そんなふたりの言葉を聞いたとりやまが、「10年の付き合いになる林さんとのお仕事だったので、
安心して取り組むことができたんだと思います」と言えば、

「とりやまさんならこう考えるはず、となんとなく分かるんで、こちらもやりやすいんですよ(笑)」と林さん。

……どうやら、チームワークも完璧だった様子!

 

『鈴木米店』の2階は、客席として使われるほか、レンタルスペースとしても利用可能。

現在は江戸浮世絵の摺り体験ワークショップを予約制で開催しているほか、ミーティングや展覧会、
そしてもちろん宴会にも使うことができるそうです。

「今、林さんと海外で進めているプロジェクトがひと段落したら、この2階を借り切って宴会しましょうっ!」と、とりやまも貸し切り予告。


これを機にロゴマークも一新することになり、とりやまがデザインした  

焼き魚定食や鶏唐揚げ定食が人気なランチ、ごはんにもお酒にも合う一品料理が豊富なディナー。

ぜひ、八丁堀にお越しの際は『鈴木米店』でお食事を。

お料理のおいしさと店内の居心地のよさ、そして『あとりえ』の仕事ぶりを体感してくださいね。





取材先 八丁堀 鈴木米店
〒104-0032 東京都中央区八丁堀3丁目21−1
TEL 03-3551-1011
https://www.suzuki-kometen.com/

昭和初期からこの地で「八丁堀 鈴木米店」として商いを続ける老舗。
一級建築士事務所あとりえが、築90年の木造棟割長屋のリノベーションを担当した。
撮影:スズキアサコ
取材・文:吉田けい